ガラス新構法のご紹介

せんだいメディアテーク
働きとしての樹 ーせんだいメディア
テークにおけるチューブ
南側外観夜景
photos by Iwata Hideaki
<せんだいメディアテーク>の<チューブ>は大きな樹木である。サイズも形もさまざまだ。
だから、この建築のなかにいると、林のなかを歩いているようにいろいろな場所がある。
しかし<チューブ>が樹木であるのは見かけの問題ではない。有機的な<働き>としての樹である。 <チューブ>は自然光や新鮮空気、冷暖房の空気や電気などのエネルギーを各フロアに送り返す。また館内の人々をエレベーターや階段によって撹拌する。
均質になりがちな都市の建築空間に自然のなかと同じようにさまざまな<場所>をつくりだし、人々を生き生きとさせる働きをもつ樹木、それが<チューブ>の意図なのだ。
伊東豊雄
透けるチューブ/チューブの
ストラクチャー サッシの構造
避難階段部チューブ
photos by Iwata Hideaki
透けるチューブ
光・空気・水・電気・人・物を運びフラットスラブを支えるチューブは透明度が極限まで追求され、その約6割がガラスで覆われている。
チューブは法的には、「竪穴区画」を構成し、うち1本は「避難階段」であったため、高い防耐火性能をもち火災時の輻射熱を遮る遮熱防耐火ガラス「パイロストップ」(※)の採用可否が成否を握った。実施設計では必要防災性能の検討と評定、数回にわたるガラスとサッシの防耐火試験と、避難階段シミュレーションが行われた。
チューブのストラクチャー サッシの構造
耐火ガスケットを主体としたサッシが開発され、その存在感を極力おさえ、様々な厚さのガラスを保持し、かつ複雑な形状に追随する、透明度の高い構造システムが完成した。
「避難階段」のチューブは明るく快適で、非常時に普段意識している動線を明るい方向へ避難する人間心理に合致するため、防災上も画期的だ
パイロストップの遮熱原理(※)
遮熱防耐火ガラス「パイロストップ」は、板ガラスと透明なケイ酸ソーダ層(水ガラス)を交互に積層した防耐火ガラスで、火災時に高温になるとケイ酸ソーダに含まれる結晶水が発泡蒸発して気化熱を奪うことで、輻射熱を遮断する。
積層枚数を変えることにより、必要な防耐火・遮熱性能を実現できる。
遮るチューブ ーチューブの防災計画
5階スラブ面に使われたパイロストップ
photos by Iwata Hideaki
チューブの防災面については、日本建築センターの防災性能評定を受けて旧建築基準法第38条による大臣認定が取得された。
認定にあたっては、各場所について、置かれる可燃物量の算定と考えうる火災や避難の状況を想定し、それに対応できる区画性能をもつチューブとすべく、耐火仕様と使用材を選定した。
各階の設定仕様や使用材料については、下表を参照されたい。
場所 耐火仕様 ガラス仕様
1階:エントランス
オープンスクェア
5・6階:ギャラリー
標準火源No.1(※1)
(火災荷重(※2)5kg以下)
防火ガラス(網入 or 耐熱強化ガラス)
2階:情報レファレンス
情報アクセスコーナー
7階:オフィス等
盛期火災(※3)30分(※4)
(火災荷重26~28kg)
防火ガラス(網入 or 耐熱強化ガラス)
3・4階:図書館 盛期火災60分
(火災荷重55kg)
60分遮熱防耐火ガラス
避難階段部
(1・2階および5~7階)
30分遮熱防耐火ガラス
避難階段部(3・4階) 避難階段部(3・4階) 60分遮熱防耐火ガラス
3階床と5階床スラブ部分 遮熱防耐火ガラス
用語 説明
※1 標準火源 「建築物の総合防火設計法」で設定している、用途別に火災初期の状況を勘案した火災の程度。
標準火源No.1とは、通常フラッシュオーバーが起こりにくく、少量の可燃物だけが燃える時を示す。
例えば、3人掛ソファー(51.5kg)程度の物が燃えるような、事務室・集会室等の可燃物量が
少ない空間で成立する。
※2 火災荷重 床面積1平米当たりの木材換算可燃物重量
※3 盛期火災 室内火災でフラッシュオーバー以降に室内全体の可燃物が激しく燃える段階の火災。
※4 30分 火災継続時間(室内火災が継続する時間)が30分であることを示す。
ただし、ここでは定量的な解析が可能なJIS-A1304に規定されている温度-時間関係をもつ
「標準火災」とみなして換算した数値を用いている
避難階段の防災シミュレーション/防耐火試験
チューブ内温度分布シミュレーショングラフ

加熱60分後のチューブ内温度分布シミュレーション図
南側(大通り側)のチューブ(No.5)は、ガラス張りの避難階段となっている。そのため避難や消火活動時に火災による輻射熱を遮蔽する機能がガラスに求められた。
そこで、採用された遮熱防耐火ガラス「パイロストップ」の遮熱性能確認のために、最も火災時の条件が厳しい3・4階で700~1000度に及ぶ激しい火災が発生したと想定して、チューブ内部の熱環境のシミュレーションが行われた。
その結果、図・グラフに示すように、加熱約40分後まではチューブ内の温度上昇はほとんどなく、加熱60分後でガラス壁面から1mの距離の4階天井近くの部位で55℃程度という計算結果が得られた。
よって、火災発生後20~30分後までは避難に全く支障がなく、その後60分までは救助および消火活動に問題はない。仮に60分以降も火災が継続しても、遮炎性能は保たれるため、ある時間までは消火活動が可能と推定される。
なお、火災時に予想される衝撃物によるガラス破損が生じても、パイロストップの場合は遮熱性能には変化がなく、23ミリのパイロストップは耐火1時間の間仕切り壁として大臣認定を取得している。
防耐火試験
遮熱防耐火ガラス「パイロストップ」は、網入板ガラスや耐熱強化ガラス「パイロクリア」と異なり、火災室からの猛烈な輻射熱を長い間遮ることができる。
そのため、ヨーロッパでは避難路周辺のガラスパーティション、ガラスドアなど多くの場所で20年間以上使われてきた。
せんだいメディアテークで採用するにあたっては、数回にわたって実大実験が行われ、ガラスと共に細いサッシも含めて、その防火・遮熱性能が検証された。
よって、火災発生後20~30分後までは避難に全く支障がなく、その後60分までは救助および消火活動に問題はない。仮に60分以降も火災が継続しても、遮炎性能は保たれるため、ある時間までは消火活動が可能と推定される。
防耐火試験加熱後45分過ぎの状態
パイロストップ(左)は加熱開始後白濁し遮熱性能を発揮して手で触れることもできるが、一般の防火ガラス(右)は前に立つこともできず、可燃物を近づけると着火する。
加熱実験 ー網入板ガラス、
パイロクリア、パイロストップ
網入板ガラスの加熱実験
熱20分後の網入板ガラス非加熱面の温度分布(最も高い部分は約550℃)
実験条件
ガラス種類 網入板ガラス 厚さ10ミリ
サッシ 防火シールによる3連窓サッシ(縦サッシのみ)
サイズ 1500×2730mm(最大ガラスの大きさ)
加熱温度 建設省告示第2999号別記1による
加熱時間 30分以上
加熱20分後の網入板ガラス(炎がはっきりと見える)
実験結果
規定時間の30分を過ぎて、加熱34分後に目地が開くまで持ちこたえることが、確認された。
しかし、図に示すように非加熱面の表面温度は加熱10分後に400度強にのぼった。可燃物が内部にないチューブの場合は30分区画機能は持っているが、人が避難する場所に用いたり、層間区画に用いることはできない。
パイロクリアの加熱実験
加熱20分後の耐熱強化ガラス「パイロクリア」
実験条件
ガラス種類 耐熱強化ガラス「パイロクリア」厚さ8ミリ
サッシ シリコーンガスケットを用いた6分割サッシ(縦3分割・横2分割)
サイズ 1484×2200mm(最大ガラスの大きさ)
加熱温度 建設省告示第2999号別記1による
加熱時間 30分以上
実験結果
規定時間の30分を過ぎ、45分後に倒壊するまで持ちこたえた。
しかし、網入板ガラスと同様に遮熱性能はないため、非加熱面の表面温度はかなりの高温となった。
ただし、網入板ガラスと同等以上の防耐火性能をもつパイロクリアは、曲げ破壊強度・耐衝撃強度ともに網入板ガラスに比べ格段に高い性能である。
パイロストップF30(30分耐火)の加熱実験
加熱実験時の温度変化グラフ
実験条件
ガラス種類 遮熱防耐火ガラス「パイロストップ」厚さ15ミリ
サッシ シリコーンガスケットと防火シールを用いた6分割サッシ(縦3分割・横2分割)。
サイズ 1484×2200mm(最大ガラスの大きさ)
加熱温度 建設省告示第2999号別記1による
加熱時間 30分以上
実験結果
加熱3分後に1層目ケイ酸ソーダ層が発泡を開始し、44分後に最大寸法のガラスが脱落するまで持ちこたえた。
また、加熱30分経過時における非加熱面の温度はガラス部分で123℃・目地部分で最大386℃に留まった。
パイロストップF30(30分耐火)の加熱実験
加熱実験時の温度変化グラフ」
実験条件
ガラス種類 遮熱防耐火ガラス「パイロストップ」厚さ21ミリ
サッシ 評定時に検討したディテールによるシリコーンガスケットと防火シールを用いた6分割サッシ(縦3分割・横2分割)。
サイズ 1520×2200mm(最大ガラスの大きさ)
加熱温度 建設省告示第2999号別記1による
加熱時間 60分以上
加熱60分後時の様子

加熱60分後時の非加熱面温度分布(最も高い縦サッシ部分で約250℃)
実験結果
加熱4分後に1層目ケイ酸ソーダ層が発泡開始し、91分後に中央部ガラスが脱落するまで持ちこたえた。
また、加熱60分経過時でも非加熱面ガラス温度は112℃に留まり、シリコーンガスケット非加熱面側は試験終了時でもゴム弾性を残していた。
建築データ
Architecture Data
名称 せんだいメディアテーク
所在地 仙台市青葉区春日町2ー1
面積 敷地面積:3,948㎡、建築面積:2,844㎡
延床面積:21,654㎡
構造 S造・一部(地下2階)RC造、地下2階・地上7階・塔屋1階
寸法 最高高:36.49m、階高:4,000mm(基準階)
設計 伊東豊雄建築設計事務所
監理 伊東豊雄建築設計事務所
施工 建築:熊谷組・竹中工務店・安藤建設・橋本共同企業体
Glass Data
パイロストップ
構成
15ミリ 1・2・5・6・7階:チューブNo.5
21ミリ 3・4階:チューブNo.1,2,3,4,5,7,8,12
33ミリ 3階:チューブNo.1,6,9
5階:チューブ床No.6,9
6・7階:チューブ床No.1
33+33ミリ 5階:チューブ床No.1
使用面積
全体合計 1,140㎡
パイロクリア
構成
8ミリ B1階:チューブNo.2
1階:チューブNo.2,3
2階:チューブNo.2,3,6,7,8,9,12
5階:チューブNo.2,3
7階:チューブNo.2,3,4,6,7,8,9,12
使用面積
全体合計 1,410㎡
網入板ガラス 菱形ワイヤー
構成
10ミリ B1階:チューブNo.7,8
1階:チューブNo.1,7,8
2階:チューブNo.1,4
5階:チューブNo.1,4,7,8
6階:チューブNo.1,2,3,4,6,7,8,9
7階:チューブNo.1
R階:チューブNo.1,2,3
使用面積
全体合計 820㎡
ガラス技術担当
日本板硝子株式会社 建築硝子部 池内 清治、杉浦 公成